2006年10月23日

代理母を守れ 〜代理出産問題に関連して

ここまで代理出産についての記事をまとめて書いたところ、次のブログ記事よりトラックバックをいただいた。

「Because It's There」より
代理出産(代理母)による法律関係〜「代理出産禁止」を見直しを含め再検討へ

反論ということだが、どちらかというと当方の特に法的知識の足りない部分を補ってくれるようなよい記事で、大変勉強になった。
記事を書いた方は、反論とおっしゃっているところから代理出産賛成ということなのであろうが、上記の記事では、主に倫理的な面には言及せず、法的な面から、現状の立法や司法の流れについて解説している。

これについて、自分の記事への補足を兼ねて、短いがご返答したい。

すこし長いが、該当部分について、上記記事より引用させていただく。

理由として、

「依頼者を実母と記載すると……分娩者は戸籍に一切記載がないことになり、将来的に依頼者と分娩者の間にトラブルが発生した場合、代理出産の事実関係を確認する証拠に欠ける可能性」

を挙げています。これは、戸籍制度にどこまで身分関係を記載するかの問題ですね。色々な情報を載せると国家にとって管理しやすいですが、プラバシーを侵害するおそれがあります。この国家管理を好ましいと思うかどうかの価値観の違いによる問題だと思います。私は、依頼者と分娩者の間のトラブルは、代理母契約上の問題であり、本来当事者間で解決するべき(裁判所の関与もありえます)であって、代理出産という高度なプライバシーは戸籍に載せるべきではないと思います。
(追記:近親婚の禁止(民法734条〜736条)の観点からすると、戸籍には、代理母よりも血縁関係者が出ていた方がいいと思います)


私の考えは、国家管理という点からではなく、主に代理母を保護する立場からのものであることを明確にしたい。
代理出産において、最も不利益を被る可能性が高いのは、代理母である。生命や健康の危険、生活の制限、精神的苦痛、いずれの面においても、依頼者側には不利益の可能性が極めて低いのに、代理母側のみが大きな負担を強いられる。
もし仮に金銭授受による代理母依頼が認められれば、その負担の見返りが金銭ということになるが、その額が、契約終了後に訪れることのある健康障害や精神的外傷も含めて十分に補償される額になるとは、考えにくい。向井夫妻が代理母に払った額が参考になるかと思う。
すなわち、代理母は依頼側と比較して、絶対的弱者なのである。
従って、代理出産を法的に認めるならば、十分に代理母側を公的に保護する形にせねばならないし、運用上でもそのようにすべきだと考える。
そうしなければ、率直な話、善意で代理母をしてくれる人は存在しなくなる。
上記引用部、

依頼者と分娩者の間のトラブルは、代理母契約上の問題であり、本来当事者間で解決するべき(裁判所の関与もありえます)であって、


に関しては全くその通りだと思う。だからこそ、「代理母が分娩した子である」という事実は何らかの形で記録として残さねばならないと考えるのだ。
例えば、代理母側が「代理母分娩によって一生治らない病気になった。こんなことになるとは知らされなかった。契約にもなかった。補償を求める」という訴えを起こしたとする。この場合、争われるのは、

1.(代理母)分娩を原因としてその病気になったのかどうか
2.契約時にその可能性を本当に知らなかったかどうか
3.代理母契約内容の妥当性
4.分娩は代理母契約によるものだったのかどうか(自分の子の出産でないのかどうか)
といったところになるだろう。
(落としている部分もあるかもしれないが、ご容赦願いたい。)

ここで、4.について確認するためには、訴えた者(代理母)の分娩の事実とともに、その分娩によって生まれた子が、依頼者として指摘されている者の子である、という証拠が必要となる。
この証拠となるものが、現在公的文書として存在するのか、私はよく知らない。分娩証明書はもらえるが、分娩証明書に記載された子と代理出産依頼者が現に育てている子が一致する、ということをその書類で証明できるかは不明であり、分娩証明書が公文書として永久保存されているかどうかも寡聞にして知らない。*1
いずれにしろ、現存しないのであれば、分娩者=母と規定できなくなる代理出産解禁時までにそれを作らないといけない。上記のケースで依頼者側が「この子はその代理出産による子ではありません、嘘だと思ったら証明してみなさい」とゴネたら、それを覆すのが困難になる。DNA鑑定をしても、その代理母との関係を証明することとは無関係。状況証拠を積み上げることはもちろん可能だが、その前に、証拠能力のある文書をもって、依頼者の子は代理母の分娩によって出生したものである、と明記されていれば、明瞭に代理母の代理出産の事実を認めることができる。

依頼者と子のプライバシーに配慮するなら、戸籍記載ではなく、公には目につかない形での保存で構わない。
依頼者Aの子Bは代理母Cの分娩による出生である。これだけの事実を、少なくとも証拠能力のある文書として、本人たちではなく第三者(戸籍を管理する役所が最適であろう)が十分長期にわたって保管する必要がある*2
これは、代理母の福祉のために必須である。
これだけは強く主張したい。



以下は、ごく個人的な印象や感想の話。
実際のところ、このくらいきつい縛りにしないと、代理母のなり手などいないんじゃないだろうか。
代理母はあまりに得るものがない。妊娠って全然楽じゃない。個人差は大きいが、1人目は大したことなかったのに2回目の妊娠はつわりもひどいし身体もだるい、なんてことはよくあること。しかも24時間300日、ずっと「仕事中」。これを「仕事」として報酬をもらうなら、数百万じゃ正直足りない。しかも健康のリスクも伴うとなれば。でもって、その治療は契約外で、自分の金から出せって?
でもって、依頼者はのうのうと楽しく暮らして、つわりも食事制限も無縁で、お酒もタバコもやり放題、遊び放題。それでいて子どもも手に入る。こんないい話はない。お金で解決がつくんなら、私だってそうしたかったかもしれない。2人目妊娠中、本気で誰かに代わってもらえたらいいのに、と思っていた。耐えられるのは、そうしなければ子どもを産めないからこそだ。

骨髄移植ならまだいい。時間的に縛られるのは骨髄を採取される前後の短期間だけ。リスクは基本的に全身麻酔によるもの。それでも、バンクには登録しているのに、いざドナーに選ばれたとなると、時間的問題などで拒否する人が多いと問題になっている。
生体臓器移植は、親族の命を救うために行うもので、自分の臓器を提供し、健康上のリスクを伴う、という不利益のかわりに、自分の親族の命を救えるという大きな利益がもたらされる。
脳死移植は、基本的にドナーの被る不利益はない。脳死に至る前の救命処置や治療に手抜きが生ずるのではないか、という懸念をもつ人がいるが、そういうことがないように厳密な運用がなされるよう、法律と現場が縛っている。それでも、脳死の概念そのものを受け入れられない人は少なくない。
では、代理出産は?

もちろん、世の中にはいろいろな人がいて、それでもいい、という人もいるだろう。でも、数は非常に少ないはず。
無報酬ということになれば(日本で認められるならその方向になるだろう)、さらに減る。実際、身内でもなければ、そんな不公平不利益を受容できないだろう。50代の母は、生まれてくるのが自分自身の孫だから、頑張れたのだ。赤の他人の子だったら、絶対にやってない。
代理母を身内に限定するのが、日本においては最も実効的な方法であろうが、かといって閉経後の人に本来不必要なホルモン投与までして無理やり妊娠させることが医療のすることとして正しいとも思えないし、本当ならそんなことはしたくないと思うのが医療側の正直なところであろう。女性ホルモン投与はある種のガンのリスクを高くするとも言われている。
そこで妊娠可能な状態の身内の女性と限定すると、非常に対象が少なくなる。少子化の昨今、そんな身内はそもそもいない、という家系も少なくないだろう。
どんな形にしても、納得できる数の代理母を確保できる気がしない。

代理出産を本当に有効な形で日本で実行し、不妊者を救う方法としたいならば、代理母こそが十分に守られるような法律とシステムを作ることが不可欠なのだ。
そうでなければ、たとえ法的に認められても、脳死移植の現状よりもさらに悲観的な事態が待っているだけで、海外での代理出産希望者は減らないだろう。
私には、あまり明るい先行きが見えてこない。

*1:このあたりは私の勉強不足なので、知っている方がいたら教えていただけると嬉しいです。

*2:改竄や紛失の恐れをなくすためである。


タグ:代理出産
posted by あずみ at 13:34| Comment(3) | TrackBack(0) | ニュース等 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こちらでははじめまして。TBと紹介、ありがとうございます。
貴ブログのように、きちんと考えているブログを見ますと楽しくなります。なので、反論したくないな〜というのが本音です。なので少しだけ。

>依頼者と子のプライバシーに配慮するなら、戸籍記載ではなく、公には目につかない形での保存で構わない

やはり戸籍記載は避けたいです。でも、理由が「プライバシー」なんてちょっと抽象的な書き方でした。すみません。
具体的に言うと、戸籍記載しないことは子と代理母の利益になるということです。子や代理母名(代理出産の事実の発覚)を記載すると、子が代理出産差別やいじめを受けるおそれがありますし、また、今の状況だと、代理母も差別や嫌がらせを受けるおそれがあるからです。

>契約にもなかった。補償を求める」という訴えを起こした

補償する事項を含め契約書に書いておくべきですね。なので、書いていない事項につき請求しても難しいかも。

>依頼者側が「この子はその代理出産による子ではありません、嘘だと思ったら証明してみなさい」とゴネたら、それを覆すのが困難

きちんとした代理母契約書があればそれで証明できますし、病院での診察・出産記録がありますから、証明はさほど困難ではないと思います。もっとも、米国のように裁判所が親子関係を決定するのが一番いいとは思いますけど。
Posted by 春霞 at 2006年10月24日 07:00
>春霞さん
コメントをどうもありがとうございます。
ご意見について一つずつこちらからもコメントさせていただきます。

戸籍記載の問題に関しては、了解しております。戸籍に記載すること自体を望むわけではないので、この点については、本文にも記載したとおり、戸籍でなくて構いません。
他者の閲覧が大変困難な文書であれば、春霞さんのおっしゃる問題は回避できると考えます。

「契約になかった」については、たまたま例示でそのように書いてしまいましたが、すでにした契約の是非を争う訴訟でもかまいません。
述べたかったことは、訴訟が裁判所に実際に持ち込まれて、代理母の分娩の事実を争われる可能性はあるということです。当事者同士では解決できない(意図的にしない)ケースがありえます。

最後の
>>きちんとした代理母契約書があればそれで証明できますし、病院での診察・出産記録がありますから、証明はさほど困難ではないと思います。もっとも、米国のように裁判所が親子関係を決定するのが一番いいとは思いますけど。

についてです。
病院でのカルテについては、一定の保存期間(現在では5年だったと記憶します)は定められていますが、それを過ぎれば破棄してもよいわけです。重要な症例は半永久的に保存するよう各医療機関では配慮していますが、あくまで医療機関の自主的な配慮です。期限を越えればカルテが捨てられたとしても文句は言えません。
「きちんとした代理母契約書」の存在は大切ですが、その保存に不安があります。弁護士などに頼めばいいのでしょうが、そこまで法的知識と金銭的余裕がある人ばかりではないでしょう。悪意をもって捨てる人もいないとは限りません。特に代理出産依頼側としては、全ての証拠を消し去りたいのが本音でしょう。嘘を言ってでも代理母側の契約書も捨てるよう頼むかもしれません。
そういう点から、なんらかの確実な形で、最低分娩の事実のみでも公的に保証できる方法を考えました。
公的機関が関与する以外の方法以外では、必ず弁護士なり法的資格のある者がそれぞれの代理人として同時に交渉と契約に関与すること、または臓器移植コーディネーターのように専門的に交渉に関与する人を必須としてコーディネーターセンターを設立しそこに記録を蓄積する、なども考えてみました。

(ただし身内以外の代理し出産を認める場合の話です。身内のみにとどめるならもう少しゆるくてもいいと思います)

裁判所が親子関係を決定するのは確実でよい方法だと私も思います。そこまでできれば文書的に代理母の分娩事実記録を残すまでもなく解決できますし、記録も公的に完全に残りますので、不安は取り除けますね。

自分は代理出産に関与する人は(依頼側、代理母側両者とも)法的知識は豊富ではないことを想定していますので、法的に代理出産を認め開始する前に、かなりきちんとした法的管理の整備が必要だと思います。
代理出産したい人はまず弁護士ではなく医師やネゴシエイターのところ行きます。法律の専門家にとっては当然の常識でも、素人(他分野の専門家含む)にとってはえ、そうなの?ということはたくさんあります。
そういうところから法的に有効な契約を行うところまでは、たいへん遠いように思います。

まとまりませんでしたが、とりあえず思うところをお返事として書かせていただきました。
どうもありがとうございました。また不備などご指摘くださいましたら幸いです。
Posted by あずみ at 2006年10月24日 09:05
上のコメントで書き落とした部分について追記いたします。

「きちんとした代理母契約書」のくだりについて。
契約書は妊娠出産前に交わすものであり、契約の有無とその内容は確認できますが、それによって実際に分娩が行われた事実を示すことはできません。契約は交わされたが妊娠出産に成功しないケースもあるからです。
従って、やはり契約書とは別に、分娩事実を確認する方法が必要となります。

裁判所に親子関係を決定してもらう方法はよい方法ですが、訴訟・裁判自体が日常的であるアメリカと比べて、日本にその方法が馴染むかどうかはやや疑問でもあります。
代理出産依頼者(遺伝上の母)、代理母(分娩した者)、子という三者の関係は常に一定であるので、決まった法的手順を事前に決めておき司法でなく事務的に行政で管理するほうが手間が少なく日本には馴染むかな、という感じはもちます。裁判費用もかからなくてすみます。

なお、私は、出生や親族関係に関わることは従来基本的に国(行政)が管理しており、特殊な例(争う点が存在する例)でのみ司法が関わると解釈しています。
従って、争う余地のない代理出産子については、従来どおり行政で管理することで問題ないと思います。
この点は、春霞さんのお考えとは決定的に対立する部分かと思います。

以上、追記させていただきました。
Posted by あずみ at 2006年10月24日 14:48
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